地域生活を考えよーかい

地域生活を考えよーかい

誰もが暮らせる地域づくり見聞録
神奈川県横須賀市 社会福祉法人みなと舎 ゆう

作成日:2009年6月3日(水)
掲載日:2009年6月12日(金)
報告者:特定非営利活動法人地域生活を考えよーかい

 少し蒸し暑かった前日(6月2日)夜に横須賀に到着。
 横須賀と言えば、私たちの世代では、おそらく「港のヨー子(この、『こ』は、カタカナなのか漢字なのかはよく解らない)、ヨコハマ、ヨコスカ」(ダウンタウンブキウギバンド)、あるいは、山口百恵さんの「横須賀ストーリー(だったか?)」、または軍艦のイメージだったりですが…。
 そんな雰囲気を味わうこともなく、翌朝、横須賀の街から、車で30分ほどの「みなと舎・ゆう」さんを訪れました。
 天気は曇り、しかし雨は降らないだろうとの予報。
 その場は、私が抱いていた「横須賀」という街のイメージからは遠く、のどかな畑山の中にある、傾斜を利用した建物でした。
 そして、少し緊張しながら(けっこう、かなり人見知りの激しい私でして、更に「施設」というハコモノにも、なぜか圧力を感じてしまうもんで…)玄関に足を運ぶと、施設長である森下浩明さんが、出迎えて下さいました。
 森下さん、電話でも、お話しさせていただいたのですが、その声、そして、実際にお会いして、ほんとに円(まろ)やかな人であることを感じさせていただける方でした。
 なんと言いますか、その笑顔は、長嶋茂雄さん(の若かりし頃の)に似ているような爽やかさでした。
 こんなペースで報告書を書いていると、どれだけ長くなるのか?と心配になるのですが、しかし、今回の訪問においては、改めて、いろんなことに気付かされ、更に発見がありという、おそらく書き記せば途方も無い量になる…程の凄い(素晴らしい)体験でした。
 まず、『ゆう』に入って感じることは、極当たり前のことだと思うのですが、多くある施設とは少し違い(ほんとに私が持つ施設のイメージは、よくない…、決してそんなところばかりではないのですが…)、事務スタッフさんはじめ、みなさんが私服(制服ではない、制服は無い?)であるということ、そして、裸足(靴下はみなさん履いていました、ので、ようするに、スリッパ等の上履きではない)で歩いているということ。
 後に記そうと思うと忘れてしまいそうなので、ここで記しておきますが、食事の際にも、食器は陶器であったり(普通なんでしょうが…)、メンバーみなさんは、親御さん方が作られたというナフキンの上に、それらの陶器の食器が配膳されてました。
 極当たり前なんですけど、あまり見られない(ように思う、施設等では)光景だと感じました。
 ちなみに(話が飛びまくりますが)、「生活介護事業所」である『ゆう』の利用者定員は40名ということで、『ゆう』の開所は、1998年8月で、11年目ということでした。
 さて、これから、特筆すべき点が多々出てくるのですが、玄関を通して頂き、広いフロアーに面した間仕切りの無い事務スペースに座らせていただき、一日の流れをお聞かせいただきました。その時刻が9時過ぎ頃。
 続いて、朝のミーティングにスタッフみなさんがいらっしゃるので…と、スタッフみなさんをお待ちしていると…。
 もしかしたら、今回の一番のびっくり!かも知れません。
 来るわ、来るわ、と言うか、出るわ、出るわ(出てくるわ)の、えっ?何人?…といった感じの、ほんとにまさしく皆さんっ!(人だらけ)といった感じの方々が1階に集合しました。
 その数、おそらく(低く見積もっても)、全員合わせて40名以上!。
 その数に圧倒された私は、自己紹介(などをさせていだいたのですが)すらも緊張してしまいました。
 後に、お話しを聞くと、「水曜日は全員(概ね)集合」の日(曜日)ということで、このような多くのスタッフがいらっしゃるということでした。
 しかし、定員40名のところに、それ以上の数のスタッフ。
 実は、これが、この、みなと舎・ゆうの最大の特徴であり、飯野雄彦常務理事(総合施設長)の信念であるところの「マン・ツー・マンの関わり(支援)」ということのようです。
 『ゆう』では、週4日の通所日が基本ということで、そのうち2日は、『ゆう』のスタッフが送迎を行う(逆に2日は家人による送迎)ということでした。
 訪れた当日は、みなさんが一同に会する水曜日ということで35名程のメンバーさん、それに関わる同数(以上)のスタッフさんがいらしたということで、ほんとに凄い数の人でした。
 では、どうして(何故)、そんなにたくさんの「人」が、関わっていられるのだろうか?と、素朴な疑問が浮かぶのですが、決して、その大半がボランティアだとかという訳ではなく(そうだとしても凄いのですが)、みなと舎による雇用スタッフということです。
 只、その雇用形態が、これまでにほとんど見たことの無いカタチで、多くのスタッフが非常勤(ようするに時間パート勤務者)であり、かつ主婦の皆さんであるということ。
 これによって、最重視する「マン・ツー・マン」の関わりを実現しているという訳です。
 今回の訪問の後半に、飯野さんから教えていただいたのですが、施設指定基準をクリアするために「常勤」を揃える(常勤雇用)のではなく、基準をクリアすることは外さず、されども、最も重要視したい「マン・ツー・マン(マンパワー)」を確保するための「常勤換算」としての人員確保。
 それこそが(それのほうが)、人ひとりとしっかり関われるカタチを作れるのではないか?ということ。
 その発想の原点は、やはり、規格・既成の概念(そもそも、その既成概念がおかしいと思うのですが⇒多者を少数で支援・介護・看護するなどという発想こそが)に囚われず、このメンバーさんたちにとって何が善なのか?ということを心底考えると、こういったカタチを考えつくんだ…ということなのかと感じたりしました。
 飯野さんは言いました「ここのメンバーさんたちは、いい顔しているんですよ」と。
 そして、スタッフである主婦のみなさん(森下施設長さんも、多くのスタッフさんが素人として入ってきていますと仰ってました)が、日々行う関わり(支援)の中で、「これでも事故はほんとに少ないんですよ」と、過日起こってしまった(数年に一度あるかという頻度の)という服薬ミスを嘆いてたりしてました。
 確かに、大きな施設や病院では、ミス・ニアミス・事故等の量はほんとに半端な数ではありません。
 私たちの事業所においてもしかりです。
 こういった状況をも作り出していることが、「マン・ツー・マン」のシステムであり、それによって、「ゆとり」・「時間」が生じ、もちろんメンバーさんにとっての利益となり、またそこで活動(働く)スタッフみなさんにとってもメリットに成り得るということのようです。
 確かに、午前中にそれぞれの活動を見学させていただいた際に感じたことは、「慌てている」、「急いでいる」、そんなスタッフさんが見当たらなかったことでした。
 そして、その他にも、このシステムのメリットはあるようで、スタッフの技量アップについても、このゆとりと濃密な関わりから、多くのスタッフ間によって、それが養われていくということ、更には、施設等にありがちな「密室(のような、変な表現で申し訳ないですが)」も作りようが無く、互いの目が行き来することでの緊張感と安心感、そういったメリットもあるということでした。
 只、森下施設長さんが仰るに、「決して、この手法が、全ての障害者といわれる方々の支援のカタチとして当てはまる訳ではないでしょうが、ひとつの方法として、スタンダードではないけれども、こういったカタチがあってもいいように思います」ということで、なるほど、と納得する私でした。
 何より、メンバーみなさんの表情だとかを見ていると、このカタチの在り様が解るという思いでした。
 さて、まだまだ特筆すべき事項はあるのですが、今回、『ゆう』本体の他に、2003年10月にグループホームとして開始した『はなえみ』(現在はケアホームとしての位置づけ)、今年オープンした新たなケアホームも見学させていただきました。
 その建物としてのイメージは、『ゆう』も含めて、「家」を感じさせるそのもので、『ゆう』の理念(「ゆう」さんにはたくさんの思いである「ゆう」があるということのようです⇒「優」「友」「裕」「祐」「有」「遊」「勇」などなど)を感じさせていただくものでした。
 また、ケアホームに従事するスタッフみなさんは、本体『ゆう』でキャリアを積んだベテランスタッフがあたっているということで、その就労システムも、スタッフ当人が望む時間帯から、キャリアアップも可能な形態をとっているということで、働き手としても、かなり働きやすい、かつ、働き甲斐のある職場であるのかとも思えました。
 そして、今回(の助成事業で)は、特に重症心身障害者といわれる方々が、どのように、どうすれば、地域でいきいきと暮らしていけるのか?ということを考えることが目的でして、最初に記していませんでしたが、『ゆう』は、重症心身障害者に特化した「生活介護事業所(旧法では、知的障害者通所更生施設)」ですので、全ての利用者さんが、程度区分6ということ、そのうち3/4相当の方々が、重症心身障害者加算対象者ということ、医療的ケアを要する方々として、経管栄養による食事摂取者が10名、吸引等を要する方々が13名、人工呼吸器利用者が1名ということです。
 ここでも、「経管栄養」や「吸引」などのケアを、一定の基準=検定によって、非医療職にも行えるシステムをとられています。
 その検定とは、ある一定の知識・技術を習得したうえで、当人に代わる代理者(多くの場合は家人=母親)の確認(認定といってもいいような感じです)、更に、提携医師の確認(認定)、施設長の確認を経て、検定クリア⇒実施という流れとなります。
 もちろん、それは、ある特定の「手法」(例えば口腔内吸引についてOKだとか)に対してではなく、それぞれの方のそれぞれの手技に対して検定を行っていくという手法です。
 そして、一番最初にまずあるべきが、「当人(あるいは家人)が、それを行ってもらいたい」という依頼があっての流れであるということ。
 そんな中で、メンバーさんのファイルも見せていただきましたが、その人に対して、時の経過と共に、そういった医療的ケアを実施する(できる)人(スタッフ)が増えていっていることが解ります。
 ここでも、この多人数スタッフによって、その人が必要とするケアを担える人が増えていくというメリットが見えてきます。
 また、こういったゆとりの環境でこそ、そういった手技等も自然のままに経験(見る・感じる)していけるのだということも感じました。
 さて、話はバラバラになってしまっているのですが、もう少し、社会福祉法人みなと舎について記してみたいと思います。
 横須賀市芦名という地にあり、この芦名という場所も素敵なところ、海が近くて山もある。また行きたいところです。
 横須賀市の人口は41万人程度で中核市となったということです。
 ここいらでは尼崎市・西宮市規模の街だと言えそうです(この両市も中核市となっています)。
 そして、事業内容が、前述の「生活介護」、「共同生活介護」が二ヶ所、「居宅介護・移動支援」、「短期入所・日中一時支援」、「相談支援」を行っています。
 そして、今回驚いたこと(驚いてばかりですが)のひとつとして、「短期入所事業」の在り方でした。
 「短期入所」については、様々な議論等があり、特に重症心身障害者・児に関わるそれについては、多くの問題を含んでいる(もう10年も前から言われています)上に、今年度は新たな大問題(これについては別途記述いたします)も含んでしまったと言えそうです。
 そんな中、みなと舎と横須賀市では、その実状=社会資源としての、重症心身障害といわれる方々の受け皿が無いということから、その受け手として、みなと舎がそれを担うことになったという経緯があるようです。
 そして、その在り方が、おそらく特筆されるべき(別の地域でも、これが行われているとすれば別ですが、少なくとも、ここいらでは聞かない)カタチであるかと思います。
 まず、現状の短期入所の報酬単価の低さ、更に、同一人物が利用する施設(事業所)によって報酬単価が異なる(医療機関であると報酬額が高い、逆に施設や単独型の事業所は低い)ということ。
 それらの点を、みなと舎及び横須賀市は改善(というか矯正)しようということで、短期入所事業における上記の差額(医療機関と施設等との)を市が負担しようというカタチ(制度)を作り上げたということです。
 これ、ほんとに画期的だということ、これまでに何度も繰り返し主張していたことを、横須賀市では、制度として運用されていました。
 もちろんこれを実現するにあたっては、飯野さんの詳細なコスト計算による設計提示と横須賀市との共同作業であったかと思われます。
 更に付け加えての驚きが、その短期入所における空床保障までもが、制度として運用されているということ。
 当たり前ですが、施設併設型や単独型にしても、一人の利用者さんがいらっしゃるとすると、そこには一人以上のスタッフが必要な訳で、入所施設のそれ(入所施設の多くでは、短期入所利用者に伴いスタッフを増員するということは、ほとんど行われていないと思います)とは違うということ、更に、飯野さんが仰るには、「ホテルコストと同様の考え」により、ある程度(けっこうな額にはなります)の空床分を賄うべきという考えで、この制度もできあがったといいます。
 もちろん中核市となる横須賀市にとっても、無いものを新たに作るよりも…という算段があるにしても、画期的な設計だと感じました。
 そして更にの驚きとして、その短期入所は、17時~翌朝9時までを基本的な利用時間と考え、それ以降の時間(施設等へ通所する方はいいのだが、土日・祝日等、そのまま支援を引き続けないといけない際に)にも、その時間帯のスタッフを確保する為の相当額の報酬までもが組み込まれていました。
 このあたりをみると、ほんとにこうでなくてはやってはいけない筈!のことなんですが、それがなかなか実現しない中、みなと舎さん、そして横須賀市では、それを実現しているということ。
 これも、今回、大きな驚きと間違いなく拡げていくべき方向(在り方はどちらだ?国の報酬単価か?それとも市町の積み上げか?)であることは間違いないと思います。
 そして、この設計を描く際にも、みなと舎における人件費をきめ細かなデータとして記し示したと言いますから、やはり、素晴らしい(というか恐るべき)みなと舎さん(飯野さん)だと実感しました。
 ちなみに横須賀市は、神奈川県でも下から何番目かの財政不健全(言い方に誤りがあればすいません)都市のようです。
 大まかに記してみましたが、今回の見学、予定の午前を大きく過ぎてしまい、結局14:30まで、延々とお話しをお聞きしたりということとなってしまいました。
 それほどに、私たち、「誰もが地域で…」を考える者にとって、刺激的なひとときとなりました。
 そんなお相手をしてくださった森下施設長さんには、ほんとに心から感謝です。
 後半、いろんな事をご教授いただきました飯野常務理事(総合施設超)さんにも、この場から、厚く御礼申し上げます。
 そして、心地よい空間を作られているメンバーみなさんやスタッフみなさんにも、心から感謝いたします。
 ほんとに大きな元気をいただきました。
 ありがとうございます。

 今回、強く感じたことのひとつは、「数の力」。
 この点については私なんぞも同様の思いを持っていたのですが、実際に、その「力」を感じながら、こんな地域力もあるんだなと感じました。
 そして、専門性と親和性(とでも言いましょうか)を考えた際にも、『ゆう』でのたくさんのスタッフさんたちが、一対一でメンバーさんと関わることで、より濃厚な「時」を共にし、その「濃厚な時間」は、限りなく親和性を高めていくものだと感じさせられました。
 私なんぞも(今回の『ゆう』さんの考えには、色々共感できるところが多くて喜んでいます)、「共に過ごす時」こそが、「専門性(なんぞ)」を超える「親和性(とやら)」を生むものだと思っていたりしますので、何度も「う~ん」と唸らせていただいたのでした(専門性なんぞという間違った表現をしてしまいましたが、『ゆう』さんにも、ステキな専門職の方々がスタッフとしていらっしゃり、その方々も、おそらく数~例えば多くの眼であり、手でありが、傍らに存在しているという安心感をお持ちじゃないのかなと感じました)。
 そして、そういったカタチから、メンバーみなさんに必要な支援(そのひとつが医療的ケアだったりするのですが)が作られていくという、そんな印象でした。
 更に、綿密な計算の上での思い切った取り組み…。
 これこそが、「誰もが暮らせる地域づくり」に必要な要素だと実感しました。
 そんなんで、さぁがんばろう!と元気をいただいたので、今後の私(たち)に、どうぞご期待ください(…?言うだけかも…)。

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