地域生活を考えよーかい

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とっても活き活きと暮らされている超重症者といわれる方のご自宅訪問記


掲載日:2012年8月20日(月)
作成日:2012年8月10日(火)
報告者:特定非営利活動法人地域生活を考えよーかい
mailto:kunimoto@kangae-yo.com

 去る8月8日(木)に島根県出雲市で暮らしていらっしゃる福田功さん(表記の超重症者といわれる方のお父さん)にお話しを伺うためにご自宅へ伺わせていただきました。
 福田功さん、島根県の重症心身障害児(者)を守る会※1)の会長さんでいらっしゃり、2011年10月20日(木)に米子市で開催されました平成23年度地域療育セミナー※2で私がお話しさせていただいた際に、ご質問を頂き、名刺交換もさせていただいたことからヒアリングをお願いしたところ、快くご承諾頂いた上に出雲縁結び空港までの送迎もしていただきました。
 今回の目的は、出雲市という地域で、障害が重く医療ニーズが高いといわれる方がどういった暮らしぶりをされているのかを確認するということでした。福田功さんの長女・冴夏(さえか)さんは、常時人工呼吸器を使用している超重症者といわれる方で、そういった方がどれ程の生き難さを抱えながら暮らしていらっしゃるのか?といったような、どちらかというとネガティブなイメージを持ちつつ訪問させていただいたのですが、お部屋に通していただいた際の第一印象は「とっても明るい部屋」にいらっしゃる「とってもお洒落な少女」(と言うには失礼な23歳の女性なんですが)といったものでした。
 その冴夏さん、平成元年生まれの23歳。地元の出雲養護学校高等部を卒業後、生活介護の事業所へ週に2回通われていたのですが、卒業の年の秋(9月)に体調を崩され(気道閉塞と思われる呼吸停止)救急搬送にて入院、退院後にも同様な状況となり、再度搬送入院され(同年10月)、その年の内(11月)に気管切開(気管・食道分離術)と胃ろう造設、GERD(胃食道逆流症)もあるということから噴門形成術も行われ、気管軟化症への対応ということで、カニュレのサイズ(長さ)を調整し退院しましたが、翌年1月には発熱で再入院という壮絶な期間を経験されたということでした。
 再入院後も数度に渡る危機的状況(前述のような呼吸及び心拍停止)があったということで、カニュレの長さや位置、呼吸器の変更など思考錯誤しながら調整し、2年以上に渡る入院の後、自宅へ戻られたということでした。その間にも外泊を重ねられたということでした。
 いわゆる医療的ケアであるとか、冴夏さん自身の症状やその変化だとか、あるいは手術等によるリスクの理解も相当なご苦労があったように思われます。重症児・者といわれる方々への医療を考える際、やはり臨床的な経験の少なさだとか、ご本人さんの独自性などから、例えば手術後に「気管軟化症」が判明したり等の思わぬリスクを後に知り得たり(潜んでいたり)、その状況の把握(両親等の)や説明(医療職者による)にも充分な時間とお互いの関係性を作るということが大切であると、冴夏さんの父である功さんからお話しをお聞きする中で改めて感じました。
 また、冴夏さんのお母さん・千寿子さんからもお話しを伺えたのですが、冴夏さんのように「ハイリスク者」とされる方に対しての医療職者の考え方にも「違い」があり、母・千寿子さんは、自らの娘の行動(活動)をできるだけ自由にと考えるのですが、なかなか「安静」(行動・活動)の制限が解けなかった時期のことを嘆いておられたのが印象的でした。
 なかなか難しい問題なのかも知れませんが、そのことにより先に記させていただいた「関係性」が良好に形成できず「説明と理解(と同意)」が上手くいかない要因となったり、何より、もしかしたら未だ未だ「医療者」と「保護者(患者及び患者家族)」との関係は対等ではないということもあるのかな?と感じました。このあたりにも今回の研究のテーマである「治療としての医療」と「地域で活き活きと暮らしていくための支える(あるいは共に考える)医療」の違い、あるいは変換(変革)を考える際の貴重な一例をいただいたように思います。
 その他、福田功会長さんには多くの貴重なお話しをお伺いしたのですが、そのひとつに、重症心身障害といわれる方々が病院へ入院される際には大抵「付き添い」が求められ(あるいは必要となる)るのですが、この数年の間に障害者自立支援法による地域生活支援事業のうちの「コミュニケーション支援事業」が各地域でも実施(出雲市では2009年7月から)され、重症児・者といわれる方々の入院時にも利用できるようになっているのですが、自治体間での格差(利用できる・できない)もさることながら、病院間(同一自治体で)の格差もあった(現在は解消されています)とお聞きし、なかなか一筋縄には行かないものなんだなぁと「地域での暮らしを支える医療」としての在り方というか医療実施機関と地域福祉(制度等)の乖離を垣間見たような貴重なお話しでもありました。
 さて、冴夏さんの、現在の生活スタイルをお聞きすると、「やはり」という言葉が出てくるのですが、先に記したような様態(人工呼吸器ユーザーであり多岐に渡る医療的ケアを必要とされる)であること等から生活介護のサービスは利用できていません。
 利用しているサービスは週に4回の居宅介護(午前中)、週に2回の訪問リハビリ、週に2回の訪問入浴、週に3回の訪問看護(1.5時間)、そして週に1回の往診という具合でした。介護給付費等支給量は、居宅介護(身体介護)が110時間、通院介護が10時間、生活介護が月に5日、短期入所事業が月に14日、コミュニケーション支援事業が5時間、移動支援事業が月に5回、日中一時支援事業がつきに5日ということでした。
 介護給付費の量はともかく、使用しているサービス量を見ると「お母さんはしんどくないですか?」という質問をしてしまうのですが、冴夏さんのお母さん「そんなことはないですよ」と以外というか淡々とお返事をしていただきました。また、話の流れの中で、「自らの子どもを預けてまでリフレッシュだとかを望むことは無い」とも仰られ、その理由は?と2つの仮想(ひとつは自らの子どもを他者に委ねられない、ひとつは自らの子どもは自らで看る)と共に問うてみましたが、双方でもなく、「毎日、ヘルパーさんなどいろんな人がいらっしゃり、それらの方とお話ししたりすることでリフレッシュになっている」とのことでした。すごいなぁと思いつつも、長くお話しを伺う中で感じたこととして、やはり、お母さんの思いの内には、愛娘(冴夏さん)への多大なる愛情が在るということでした。
 というのも、先に記した「日中の活動の場へ行けない」ことに対しては「行ける様になってほしい」という希望はある(様な)のですが、そのことも「安心して委ねることができる」ということでない現状(受け入れ先の状況がという意味の)で、そのことに対して悲観的にはならず(本心をしっかりと確認した訳ではないのですが)、例えば「大好きなPTさんが来る際にはとっても嬉しそうにするんですよ」だとか、先日は夕方から関係するみなさんと自宅前でバーベキューをされたそうですが、その際に冴夏さん、数時間に渡り安定した状態で耳にする周囲の人たちの声等にとても嬉しそうに過ごしていたと、お母さんと共にお父さんも嬉しそうに語られていました。
 また、気候のよい時期にはヘルパーさんと共に出かけたり、更に昨年も福田さんファミリーはみんな(冴夏さんには3人の弟さんがいらっしゃいます)で「ルミナリエ」(神戸市)にも行ってきたと楽しそうに話してくれました。そして、お母さんは、冴夏さんと「一緒に楽しむ」ことを大切にしている、というよりも、冴夏さんが、ある意味定められた様な(感の在る)活動様式(日中の生活介護やデイサービス・作業所などの)のみではなく、彼女にあった楽しみを得ていくことを願っているのではないかと思い、とても共感することができました。
 そして、その福田さんファミリーですが、私が訪れさせていただいた際にも二人の弟さん(中学3年生と1年生)がいらっしゃり、お二人とも、なんとも親しみのある雰囲気を持つ少年でして、今もファミリーみんな(長男さんは独立されています)で、冴夏さんのベットの在る1階の部屋でまさに川の字風になって眠られていると言いますから、ほんとに柔らかなほのぼのとしたファミリーであり、なんとも幸せそうな空気を感じさせていただきました。
 福田功さんは、そういったことも含めて、冴夏さんが「一緒にいる」(ファミリーの中でもそうですし、「地域」という中でも)ということの持つ意味だとか、その効果について、「そのことが地域だとか周辺みなさんとの関わりや助け合い等の大切なことを生み出す」と仰り、「だから地域で学び地域で暮らす」ということを実現させていきたいということでした。只、そう仰る福田功さんの言葉には、なんと言いますか、何かを倒すとかという激しい運動的な感は無く、冴夏さんのお母さんと同様の「柔らかな明るい風」のような口調であるのが印象的でした。そして、自らのお仕事(福祉用具・機器製作販売業)に導いてくれたことや私のような者等とも繋がり関わっていけることも冴夏さんの「力」であるということを仰っていました。その「力」こそが、様々な「人」を引き寄せ、繋がり関わらせていくという、まさに彼女たちの「はたらき」であると私も「やっぱり凄いなぁ」と大いに喜ばせていただきました。
 そんな引き寄せられた方々に、とってもステキな地域での活動を展開しています「CSいずも」※3の渡部直樹さん、「ホームクリニック暖」※4の奥野誠さん等がいらっしゃり、それぞれの方の事業所のURLも下記に記しておきます。
 福田功会長さんには延々3時間以上もお付き合い頂き、様々なことをお教えいただきました。その中で強調されていたことのひとつに、障害児といわれる子どもを持つ親たちのかかわりの大切さということで、実は福田功さん夫妻は以前、西宮で暮らされており、冴夏さんはなんと西宮市の生まれであったのです。その際にとても役に立ったのは「わかば園」(西宮市立の母子通園施設)での親同士の繋がりと語られていました。ご自身及びお母さんがお子さんの「障害」ということについての受容、あるいは情報の把握等について、とても大きな影響を与えられたと仰り、平成6年に出雲に転居(ご夫妻共に出雲が故郷ということでした)されてからも、その必要性を感じ(られてのこともあるのだと思います)、「守る会」の活動にも尽力されているようでした。
 今回の訪問では、とても障害が重いといわれる方が家族や地域でどのように暮らされているのか?ということの見聞が目的であったのですが、出雲の福田冴夏さんは、父母や弟たち、関わる人々からとっても愛され過ごしているなぁと実感したのと共に大きなリスク(冴夏さんは腕頭動脈婁へのリスクがあり同動脈の結紮離断を進められているということでした)を持ちながら明るく前向きな地域の雰囲気を感じさせていただけたのはとても嬉しく価値在ることであったと思います。
 しかし、山陰地域でも、ショートステイの先がなかなか見つからないであるとか、未だ未だ福田功会長さんが仰る「自らが育った地域で暮らして行く」という意識も浸透していかないという状況だそうです。そこには地域性・県民性もあるのかな?ということも仰られていました。
 そして冴夏さんの母・千寿子さんから伺った2つのことを記しておきたいと思います。
 ひとつは「医療的ケア」のこと。今年の4月には医療的ケアの一部法制化が成されたのですが、その際に実施するケアスタッフ(非医療職者の)は「医師の指示」が必要で、それに基づく手技で実施しなければいけないということで、例えば吸引機の圧力も「医師の指示」の通り行うと吸いきれないという際に臨機応変的な対応ができず、ケアスタッフがいちいち母親あるいは事業所に「許可」を申し出るなどということも起こっているということ。このあたりは多くの方が指摘している問題点と重なるのですが、新たな制度が「足枷」とならない様な、まさに「もうひとつ」のカタチが必要ではないのだろうかと改めて思いました。
 そしてもうひとつは、「吸引」という今回の一部法制化として取り上げられた「行為・手技」も、個別性の高い冴夏さんのような方(例えば通常より長いサイズのカニュレを使用している等)には当たり前にその目的である「痰を取る」ということが一筋縄ではいかないということ。このあたりは私たちも含む多くの支援者といわれる者には実感としてある感覚だと思います。その例のひとつとして、冴夏さんの母・千寿子さんは、入院している頃、冴夏さんの体調の異変を感じながらも医療的所見が見られない(X線撮影では見て取れない)中、CT検査を願い出たところ「肺炎の所見」が得られたりということをお話しくださいました。
 このことからも、専門的な知識を持つ(とされる)者よりも、常に近くに居る(もう少し言うと愛情を持って接している、というよりも共に居るというような)者の見立て(感覚)の方がより正確であったりすることも(大いに)在るということを改めて感じさせていただきました。只、ここでも、だから「専門職は」だとか「医療モデルな」とかを批判するということのみではなく、その専門性あるいは医学的な(例えばCT検査等の見えない部分を知り得る手段)こと(者)とご本人あるいはそれを代弁する者(多くは家人、更には母ということに成るのですが、決して第3者がそれに代われないということでもないと信じたいものです)とかが互いに重なり合いながら「超重症」などといわれてしまう方々に接していく、沿っていくということが必要であり(さんざんと言われてきたことだと思うのですが)、それが「共生的医療」というイメージに繋がるように思いました。
 福田さんファミリー、なんとも大らかで清々しい空気を感じさせていただき、朝一番の空路での出雲入りの際に見た大山の雄大かつ清々しさ、あるいは今回実際には訪れることはできなかったのですが「出雲大社」の壮大さをイメージさせていただきました。
 福田さんファミリーみなさんに心から感謝いたします。ありがとうございました。

※1島根県重症心身障害児(者)を守る会
※2平成23年度地域療育セミナー医療的ケアが必要な型の生活を地域で支える【医療ニーズの高い障がい児(者)への地域生活支援について】
※3NPO法人コミュニティサポートいずも
※4ホームクリニック暖

この報告は、公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の助成によるものです。


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