三鷹市新福祉総合計画(案)検討市民会議障害部会委員各位
「地域にあたりまえに暮らす」ことを支えるしくみとして支援費制度を理解する
東京都立大学大学院社会科学研究科 岡部耕典
はじめに
これから10年の地域福祉計画の立案および福祉サービスの制度設計に際し、平成15年度から導入される支援費制度は、大きな前提条件となります。
しかしながら、制度を小出しに公表する国の姿勢の問題もありその全容はいまだ不明で、イメージ的理解や抽象的理解に留まっている部分が多く、一般市民はもとより障害当事者や家族・サービス事業者・地域行政の窓口従事者や担当ケースワーカーも含め、統一的基盤の上にたって議論のできる理解ができていないのが現状です。
もとより、今回の検討市民会議障害部会において、制度のディテールについて判りやすく説明するのは三鷹市地域福祉課の担当と計画されておりますが、制度の外形的説明から踏み込んで「施設から地域へ〜居宅支援サービス充実の必要性」「実際のサービス利用申請のイメージとサービス利用支援の必要性」ということについてもイメージをつかんでいただきたく、参考資料を提出しますのでご高覧願えればと存じます。
施設から地域へ〜居宅支援サービスの充実の必要性
- 支援費制度は、お金の制度が変るだけではありません。施設入所から地域へという明らかな制度転換を目指したものです。
- 特に入所施設は、一部例外(身体障害者療護施設等)を除き、期限つき(3年・更新あり)「(自立)訓練施設」とみなされています。グループホームは、期限がない、すなわち、入所施設とは違う、という考えかたです。
- 一方で、施設入所者数:地域生活者数=3:7 なのに、使うお金は、入所施設費用:その他福祉サービス費用=7:3 となっています。(しかも、施設建設費用除く)
- 入所施設に限らず、新しい地域福祉の柱と期待されているのは、施設ケアではなく、コミュニティケア=「居宅支援サービス」です。
- その中身は、ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイの3点セットといわれています。これは、自立して、もしくはライフサイクルによっては家族と暮すあたりまえの生活を地域でおくることを基本にしてそのために必要なサポートを地域福祉が行う、という考え方になっているからです。(ちなみに話題になっている保健士の提供する対人社会サービスもコミュニティケアのひとつです)
- 入所だけでなく、作業所・通所更生・授産施設もそれそのものは居宅支援サービスでありません。
- ガイドヘルプは、制度上はホームヘルプの一種です。緊急一次保護は、国制度ではショートステイであり、これらの事業は、全て支援費制度に移行します。また、デイサービスとは、制度上は、現存の通所更生・授産施設、小規模作業所等を指すものではありません。
- さらに、支援費制度下では、上記居宅支援サービス(知的グループホームも)は、行政や社会福祉法人でなくても、NPO法人や民間企業でも運営できるようになります。
- 一方で、共同作業所は、国の制度上は福祉サービス提供主体とは認められていませんので、支援費に移行しません。また、法人格をもっても、小規模通所授産施設は、支援費制度の対象外です。
- このあたりに、居宅支援サービスと通所施設に対する今回の国の考え方と優先順位が反映されているといえます。(これは都も同じです)
- 居宅支援サービスの事業者については、介護保険に似た指定事業者制度をとり、その認可は市町村ではなく東京都が行います。利用者は、市町村の枠によらず近隣の指定事業者と契約を結びサービスを受けることができます。この東京都の事業者説明会は、7月に開催され、10月には事業者認定が行われる予定ですが、あまり知られてはいません。
- 支援費の行政費用負担割合は、国1/2,都道府県と区市町村は、それぞれ1/4で、現行の市単独事業もしくは都制度の事業(小規模作業所等助成制度)が支援費制度に移行できれば、市の費用負担比率は少なくなります。
- 支援費において、ホームヘルプ等の居宅支援サービスには、国基準としては時間制限(総量制限)はありません。これはかなり画期的なことといえます。しかし、市と都の方針と予算の都合で、サービスの支給量上限は区市町村が決めてしまうことがあります。
- 国もそうですが、東京都も、障害福祉予算の総額は支援費転換後も同額程度としています・・三鷹市はどうなるのでしょうか・・?しかし、同額としてもそれが居宅支援サービスを増やせない理由にはならないと思います。なぜなら、独自サービスが支援費制度に移行するほうが市の負担割合は少なりますし、その分予算が使える分は施設ケアの増加にあてるのではなく、居宅支援サービスの増加に充てるように地方行政を誘導するというのが今回の趣旨であるからです。
まとめ
地域で暮すことをサポートする在宅支援サービスは、介護保険と同じく支援費制度でも、しくみの中核を占める重要なものです。しかし、積極的な広報や利用支援の不足もあってまだ認知や利用もすくなく、市民会議のなかでも支援費の議論のなかでも、入所の枠の保障やそのための箱モノ整備をめぐる議論の陰に隠れて、ほとんど議論されないのが現状であるように思います。
しかし、「障害のある人が地域であたりまえに生き生きと暮す」とは、居宅ケアの充実によるところが大きいのです。話題の生活支援センターの整備も、まさにこの在宅ケアへの大転換の時代に在宅する一人一人のサポートをするためのしくみであり、その前提が忘れられてしまうと、「もうひとつのハコもの要求」になりかねない懸念がでてきます。
また、市民会議といえども政策提言の議論をする以上、予算配分の議論は最終的には避けてはとおれないものであるわけですが、都のみならず、三鷹市も民生費の総額を変えられないというニュアンスの発言もあり、また、施設ケア関係(通所施設を含む)の予算請求は組織的かつ熱心に行われる現状を考えると、市民会議は居宅介護支援サービスの推進を提案する積極的な政策提言をしない限り、居宅支援サービスの予算は増えないのではないかと懸念します。
実際のサービス利用申請のイメージとサービス利用支援の必要性
@「このサービスを使いたい」という利用者の「申請」
これには障害手帳は必須ではありません。
申請は、本人の名前であれば、友達からでも、施設職員からでもできます。
※でも、多くの区市町村では、「どういうサービス利用をしたいか相談したい」という対応のために、職員が増やされる予定はないようです・・・
A市の職員が「実情」を聞き取りをする
介護保険では、これは民間のケアマネージャーも代行できますが、支援費では職員だけです。
※でも、多くの区市町村では、そのために職員が増員される予定はないようです・・・
B聞き取りをした結果で「考える」
考える項目は国がマニュアル化しています。
しかし、決定するのはそれぞれに市で、決定条件等もブラックボックスです。
※介護保険では、コンピュータ化で要介護認定は標準化されていますが・・・
C決めて通知する
「支給しない」・「保留する」という通知もありえます。
「支給しない」の場合は理由を明記する必要があります。
しかし、理由としては、「予算がない」「つかえるサービスがない」といった理由もありえます。
しかも「保留」の場合はさらにあいまいで、保留期限も明記しなくてよいようです。
※サービスが本当に必要な当事者であっても、地域でサービス供給が不足しているとき、「支給せず」「保留」という対応を行われる懸念があります。
D行政の決定に不服があっても特別のしくみはなし
介護保険とちがい、専門窓口はない
「行政不服審査」で請求するしかない、といわれています・・・
※しかし行政不服審査は利用者が気安く利用できる制度でしょうか・・
まとめ
措置費制度は、「行政側が一方的にサービスを決定する(措置:行政処分する)制度、支援費は、利用者が主体的に契約により自らサービスを選択する制度、と一般には言われてきました。しかし、同じくそういわれた介護保険でも現実にはそうなってはいないし、上記のように支援費制度の要介護認定に相当する部分をみただけでも、利用保障という面では介護保険にも劣る状態です。
これでは、コミュニケーション能力や知的能力に障害をもつ人はもとより、福祉サービスをうける当事者と行政職の専門家では、圧倒的に、知識・権威・交渉力に差があるのが普通ですから(これを非対称な関係といいます)支援費下におけるサービスをうける権利とその量は、ほとんど行政側の裁量によって決められてしまうことが危惧されています。
そうならないために、国は障害者ケアマネジメント制度を構想し、東京都は、「福祉サービスの積極的な利用支援」ということを打ちだしてきました。高齢者のケアマネジャーと違い、障害者ケアマネジメントは、お金に直接つながる資格制度ではなく、むしろ、事業者・当事者・市民の立場から、行政のケースワーカーと連携を組み利用者に近い立場から必要なサービスプランを当事者とともに考え、当事者単独では困難な行政への申請や交渉を援助するしくみといわれています。そのために当事者も含めた広い立場の参加者を得て東京都の障害者ケアマネジメント従事者研修が行われており、調整の場は、介護保険と同じく、サービス調整会議とよばれ、15年度よりの区市町村での実施を国は求めています。三鷹市では、こういった取り組みはどうなるのでしょうか・・・
参考までに、心のバリアフリー市民会議の今年の取り組みである障害福祉サービス利用支援事業「あどぼ三鷹武蔵野」について、パンフレット資料および7月27日セミナーのちらしを添付いたします。