地域生活を考えよーかい

地域生活を考えよーかい

 知的障害及び重症心身障害者などを中心に事業展開している小規模事業所の運営実態とその特性及びそれにともなう要望

掲載日:2003年12月24日
特定非営利活動法人ふわり 戸枝 陽基


◆組織の構造

 支援費制度の居宅介護事業を運営している事業所は、以下のような組織構造と人員配置のもとにサービス提供をしている。そこを整理すると、介護保険の介護単価と支援費のそれを揃えることが、いかに、障害特有のニーズに基づいたサービス提供を困難にするのかを浮き彫りにするので、まずは、そこを整理する。
・相談、ケアマネジメント、ソーシャルワーク
 支援費制度では、介護保険におけるケアマネージャーに相当するようなサービス利用までのアセスメントをし、サービス調整をして、実際のサービスにつなげる役割を果たす人が制度化されず、不在である。
 また、障害者の場合、要介護高齢者の場合と違いそれぞれが特有のかなり難しい状況を持っているために、ケアマネジメントというよりは、ケースマネジメントと呼ぶに近いようなかなり時間と労力を必要とする対応が相談者に求められてくる。
 さらに、日本全国、ほとんどの地域では、ケアをマネジメントしようにも、マネジメントする社会資源自体が整備されていないため、問題解決には、ソーシャルワーク自体から始めないと問題解決ができないことが多い。
 そう整理したときに、障害者の介護事業所は、介護保険のケアマネージャーより、さらに大変な実際の支援費制度への利用につなげるまでの前段階を業務として担っており、それに対して、昨年のコーディネーター事業の一般財源化などが止めを刺す形で、正当な報酬を受け取るすべすらない。そのために、ここの部分の人件費をホームヘルプ事業の介護報酬から捻出している実態がある。
 自立生活系の事業所では、そこを障害者雇用の制度活用などで乗り切っているが、その果たしている役割から考えると、障害当事者であっても、正当な対価が支払われるべきだし、知的や重症心身をやっている事業所は、障害のない、つまり、障害者雇用などの生活保障を受ける仕組みがない者が、ここの仕事を担っており、重いコスト負担になっている。
・介護事業コーディネーター
 ここは、介護保険の居宅事業所では、ケアマネージャーと常勤ヘルパーがその日常業務の一部として担っている部分である。
 障害者の介護事業所は、ある程度のスケールを持ってくると、常時事務所にいて、登録ヘルパーが利用に入る前の指示や説明、終了後の報告と問題があった場合のケースカンファレンス、ガイドヘルプに行ったときに起こる、本人のパニック、様々な事故、発作などの緊急時をバックアップしたりする職員を配置する必要に迫られる。
 また、高齢者の介護保険事業所と違い、障害者のとりわけ移動介護は不定期な利用が多いため、その利用の調整にかなりの労力と専門性を必要とする。専門性という部分では、すべての利用者の障害特性と生活状況、すべての事業所に関わっている介助者の力量把握が必要になる。ここの人件費も、ホームヘルプの介護報酬から捻出している。相談業務同様、その人員は業務量からしてホームヘルプには入れないため、自分でその維持コストを稼ぐことができない。
・ 常勤ヘルパー(とりわけ男性ヘルパーの必要性)
自閉症の方は4対1の割合で、男性である。知的障害の方の場合、必然的に男性の利用が多くなる。プールでの脱衣はもちろん、デパートや街に移動介護で出掛けた時に、女性のヘルパーが男性利用者と更衣室やトイレに入ることは、一般市民の反応を考えた時に困難である。今までの障害福祉の中で、同性介助がきちんとされていない実態があったが、それは、施設という閉鎖空間だから、問題が隠蔽されたのであって、アウトドアでの介助では、そうはいかない。
また、ガイドヘルプに限らず、動きの激しい方への対応では、力の強い男性ヘルパーが不可欠である。当事業所でも、女性の利用者であっても激しいパニックなどがある方の場合、女性ヘルパーと一緒に男性ヘルパーを配置することがある。
そういった意味で、男性の若くて体力のあるヘルパーが必要だということが、障害福祉、とりわけ、知的障害を主に取り組んでいる介護事業所の高齢者介護保険事業所との大きな違いだと思うが、男性を常勤で維持するのは、かなりのコストを伴う。
また、男女関係なく、行動障害のある方、重症心身障害があり、ヘルパーの許されるぎりぎりでの医療的ケアが必要な方などの介助には、登録の不定期ヘルパーでは限界があり、かなりの介助力を持った、常勤者を常駐しなければならない。
 そう考えた時に、常勤ヘルパーは、その業務で家計の主たる生計者となれるコスト保障をしなければならず、介護保険事業所に、そういった状況のヘルパーがほとんど見られないとした時に、ここが障害者の介護事業所の特性だと考える。
・登録ヘルパー
障害者のヘルパー事業所が、今まで広がらなかった理由は、主に以下の3点だと考える。
  • 男性ヘルパーが必要だが、男性を常勤でおくだけの介護報酬ではないため男性が配置されておらず、頼むマンパワーが見当たらなかった。
  • 日本の福祉は今まですべて、インドアの介助できたので、アウトドアの介助スキルというものを言語化できておらず、たくさんの人にそのスキルを短時間に共有する方法を整理できていない。そのため移動介護などは対応できる介助者がおらず、断られてきた。
  • 障害者は、それぞれが、平日の昼間は、通園施設、学校、施設や職場に行っていて、ヘルパーを必要とするコア時間帯は夕方から、夜間、早朝。一週間の中で一番使いたいのは、土日。そして、子どもの夏休み。祝祭日というところが生活の中でヘルパー必要を必要とする部分である。しかし、今まで、そこの時間に運営している事業所がなかった。ちなみに、介護保険事業所では、今あげた部分を主な運営を休む部分にしているところが多く、介護保険事業所の支援費事業所登録数が多いにも関わらず、実態として動かないのは、ここの部分に原因があるのではと考える。

障害者介護事業所を運営する場合、これらの条件をクリアーして行こうとすると、リタイアをした男性、育児の終わった女性、そして、学生やフリーターを登録ヘルパーの主たる対象者にしないと介助体制が組めない。しかし、そう考えた場合にこれらの人員が仮に潤沢に確保できたとしても(それももちろん困難であるが)、これらの人員で重い介護ニーズを持っている人を支えるのは困難である。

また、夜間、早朝の介助者に関しては、時間帯の加算金に比例して介助者が直接受け取る報酬を加算していても、その介助者を確保することが困難であることは、理解していただきたい。つまり、利用者の利用希望時間帯が、障害者、とりわけ知的障害者にあう事業所が必要なだけなく、やろうとしてもかなり困難な状況である。

そういった状況の中で、障害者の居宅介護事業所は登録ヘルパーを確保しているという特異性も理解してもらいたい。介護保険を主に支えている主婦のヘルパー以外の人員を確保する大変さ、そのコスト負担に目を向けてもらいたい。

・支援費請求事務
 当事業所の支援費請求事務を担っている事務員は、この3月まで社会福祉協議会において介護保険の請求事務に従事していたものであるが、支援費の請求事務に従事し、その複雑かつ整理されていない事務作業に驚き呆れている。
 一番の問題は、障害者の介護事業所の場合、障害者というその介助対象者が要介護高齢者より少ないために、その事業展開がどうしても広域になるということで、そうなると、支援費制度は市町村事業であり、その運用要綱など、市町村の自主的な判断に委ねた部分が大きいために、それぞれの市町村で違う運用の要綱などの照らし合わせながら、場合によっては同じ内容なのに微妙に違う書式にもとづき、それぞれの利用者の市町村に請求をかけるという事務負担を受けている。その事務負担は、コスト的に考えても、介護保険より重い。

◆今回、とりわけ見直しの影響を受ける移動介護について

 単純に言って、長年施設職員をやっているものでも、自閉症で行動障害のある方とガイドヘルプで、例えばデパートなどに行って下さいというと、できない人がいる。

 施設という限られた刺激、アクシデントの起こりにくい環境で、自閉症の方と1時間を共有するのと、アウトドアの様々な刺激、イレギュラーな環境があふれているアウトドアでの介助では、本人の精神安定が図りにくい、過ごし方を定型化できないなどの理由で、その介助難易度は各段に上がる。それに対して、施設に長年勤務した職員でも、戸惑うということが起こる。そういったことを居宅介護事業所のヘルパーがやっているということ、それには、かなりの介護技術が必要で、コストがかかるということを理解して欲しい。


 それは、居宅介護と移動介護の報酬についても言えることで、住み慣れた家やグループホームという本人にとって、安定できる環境での介助と、アウトドアでの介助では、アウトドアの介助の方がその介助難易度は格段に上がるわけで、そう考えた時に、移動介助の単価が居宅介護の単価より下がるというのは、容認できない。むしろ、アウトドアでの介護が難しい方には、その介助に見合うだけの単価の見直し(単価引き上げ)を要望したい。

 当事業所だけでなく、どこの障害者介護事業所でも同じ対応をしていると思うが、普段はどんなに安定している利用者でも、パニックやてんかん発作などがある利用者に関しては、その最悪の状況に対応できるヘルパーを配置せねばならない。そのために、移動介護の場合は、常勤ヘルパーで対応したり、登録ヘルパーがその状況に出くわし、きちんと介助できることを確認するまでは、常勤ヘルパーと登録ヘルパーが、支給決定は1名配置となっている利用者にも2名で対応しているという実態が多くあることも申し添えたい。

◆要望

 以上のような運営実態から、小規模支援費居宅介護事業所としては、以下の要望を致します。
  1. 今回の見直し案は、即時白紙撤回して下さい。できない場合にも、小規模支援費居宅介護事業所を潰さないようにする具体的な対応を再考下さい。
  2. 移動介護については、居宅介護より、高い単価設定を求めます。その際、すべての障害者に対しての単価引き上げが困難であるなら、行動障害及び、重度重複障害などの方に対して、その介護に必要な報酬が適切に執行される標準スケールを策定して、格段の配慮を求めます。
  3. 相談、ケアマネジメント、ソーシャルワークを行なう人員を配置する仕組みを早急に求めます。その際、今現在そういった活動を行なっている人材を生かすという意味も込めて、NPO法人など、民間の団体にもその事業が実施できるようにして下さい。
  4. 介護保険との統合を考えているのなら、早急に障害者特有のニーズを整理し、その対応に必要な支援は何なのか、高齢者との特異性は何なのか、そして、それに伴うコストの正当性(高齢者との同等コストではやれないということ)を理論的に位置づける必要がありますので、その調査研究を早急にして下さい。そして、その際に、一番、そこを実践している民間事業所を参加させて下さい。
  5. デイサービスの中高生が利用できない問題、私達施設を持たない団体がショートステイをやれない問題など、支援費制度の諸問題を抜本的に検討して下さい。その際に、社会福祉法人に限定されているサービスの一層の規制緩和を求めます。
  以上

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