地域生活を考えよーかい

地域生活を考えよーかい

〜地域での「自立生活」支援を考える〜

執筆は太田卓司さん(北海道浅井学園大学人間福祉学部教授)、末永弘さん(自立生活センターグッドライフ)、朝比奈ミカさん(東京社会福祉協議会)です。
ビデオ『生活支援とポムヘルパー』の解説書です。長いですけど必見です。。

掲載日:2002年7月30日
作成者:北海道浅井学園大学人間福祉学部教授
太田 卓司さん
自立生活センターグッドライフ
末永 弘さん
東京社会福祉協議会
朝比奈 ミカさん


日常生活と「生活支援」:ホームヘルパーの役割

1.自立生活センターグッドライフの活動の特徴

 グッドライフの活動の特徴の第一は、障害者や高齢者が、地域の中で暮らしていけるように支援をする地域ケアの活動であるということです。これまで障害者・高齢者は、施設(病院)での生活が当たり前と考えられがちでしたが、地域ケアの考え方に転換してきたのです。

 第二は、障害の違い、世代の違いではなく、つまり、誰もが暮らせる地域社会を目指して活動していることです。そのことが同時にここで行っている支援内容とその技術の幅を広い豊かなものにしています。

 例えば、高齢者の場合、介護保険のサービスでは、身体介護と家事援助に分かれ、そのどちらかにサービスがシフトしがちですがここではどちらも行い、しかもそこにとどまらないで若いさまざまな障害を持つ人の日常生活支援、地域社会の諸活動に結びつける支援を行っています。ビデオで示されているように、身体介護か家事援助かという従来の枠から抜け出して、新しい支援のあり方、生活支援を試みているのです。

 第三は、サービス提供の援助者中心でもなく、当事者中心でもなく、援助者と当事者が一緒になって地域生活を可能にする支援組織を作り出そうとしている点にあります。

 当事者である代表の石田さんを中心に、さまざまな専門的職種の関係者と地域住民が結びついて、支援組織を作り出そうとしています。地域生活を実現するために、行政に働きかけたり地域に働きかけるさまざまな取り組みを行ったり、支援内容・技術を自ら生み出しながら行っています。そこには試行錯誤もありますがこれからの新しい地域福祉の在り方、地域で暮らす意味を考える上で大事なことがたくさん含まれています。さまざまな人たちが地域で暮らしていく仕組み作り、当事者と援助者と地域住民が一緒になった支援組織作りを、私たちはこのグッドライフの活動から学ぶことが出来ると思います。

2.「介護」と日常生活:ホームヘルパー制度

 一般に、援助を必要とする要援護者とは、"心身に障害を持ち日常生活を営むのに支障がある人"とされています。"心身に障害を持ち"という部分だけでなく"日常生活を営むのに支障がある"の部分をどのように考えるかが、ホームヘルパーの役割を考えるとき特に大事になってきます。

 ホームヘルプサービスの国の要綱をよく注意して読むと、身体障害者や障害児・知的障害者の場合は「自立と社会参加」のために、精神障害者の場合は「社会復帰の促進」のために、日常生活の支援が重要であると明記されるようになってきています。

 それに対し高齢者の場合、日常生活の支援となっていますが、何のためにというその目的がまだ明確ではありません。もちろん高齢者の場合、離床困難な人、ターミナルケアが必要で24時間ベット上の生活をせざるを得ない人もいるので一概に言えませんが、日常生活支援の意味を極めて狭くとらえているのが特徴的です。そのために、高齢者の日常生活の支援は、"出来る限り日常生活を支える"ということにとどまっています。介護保険では日常生活の基本動作を援助することが主目的(要介護者の定義を参照)であり、虚弱な高齢者や痴呆性老人のようにちょっとした生活支援があれば十分地域で生活できても、そうした支援を行うホームヘルパーの役割が位置づいていないことが課題です。この部分が介護保険ではサービスの適応外になり、介護支援と分離して「生活支援」と言われています。しかし、これからはこういうサービスの充実がより重要になってきます。

 障害者・高齢者に限らず誰もが地域の中で暮らすには、その人自身の日常生活というベースがないと暮らせません。その日常生活が生きる力になるのです。例えば、食事や排泄、入浴等のようなことももちろん必要ですが、買物や友人のところに出かけたりすることも大事です。さらに、地域のさまざまな集まりやお祭りに参加をしたり、町会に参加をして近所付き合いをするという事が地域生活です。また、そういう地域生活がきちんと出来ると、障害者が積極的に職場へ出て仕事をすることも出来るようになります。

 日常生活とは何かを改めて考えると難しくそれ自体ひとつの哲学的課題ともなります。国語辞典でもその説明はきわめて曖昧で「普通の生活」などとしか書かれていません。しかし、現在の地域福祉の考え方は、障害者や高齢者のこの日常生活を支援することにあります。しかもそれを支えていくことの意味は、障害を持っている人達が自分で自分の日常生活を自ら作り出していくことを支援する、つまりエンパワメントなのです。

 その日常生活支援の専門的職種として新しく生まれたのがホームヘルパーです。ホームヘルパーというと、とかく身体介護だけに理解されがちですが、本来は、その人が本当に自分の日常生活を創り出していく、その手助けをするパートナーがホームヘルパーの役割です。

 さらに、「生活支援」という言葉は日本独特の用語ですが、この80年代後半ぐらいからよく使われるようになりました。国の制度政策の中でも「生活支援」という言葉が、高齢者・障害者で使われるようになりました。その理由は、地域で暮らすためには日常生活の基本動作を支援するだけではなくて、地域社会の諸活動に参加して暮らしを創っていくことが必要だからなのです。しかも、一人ひとりが様々な生活背景を持っていて、その背景を持った一人ひとりを大事にした――つまり社会福祉の用語では「個別性」になりますが――日常生活とは、時間と空間から構成されたその人自身のものでもあります。その日常生活を土台に自ら自分の人生を営めるようにすることを、私たちは「生活支援」というようになってきました。これは憲法第13条の「幸福追求権」の保障でもあります。「生活支援」のさまざまなサービスを国も自治体も実施するようになり、地域に生活支援センターを作る動きも各地に広がってきたのです。

3.共生・多文化の地域社会

 社会福祉のサービス提供は国や自治体の事業だと一般に理解されてきました。しかし、障害を持っている人が地域で暮らしていく「福祉社会」を考えると、国や自治体だけではなく当事者、或はサービス提供側が一緒になってその仕組みを作り出すことが重要で、特に当事者が望む生活とそれを実現する日常生活の維持が重要になります。またそれに対するサービス提供側の専門的職種の役割、国・自治体や地域社会の役割が重要になってきます。

 グッドライフのある東京都三多摩地域では、これまでさまざまな取り組みの経験の蓄積がありました。例えば、障害者、難病患者、24時間在宅ケアが必要な人に対する取り組みや、自治体でも先駆的事業が行なわれた地域でもあります。ビデオで示したグッドライフの活動は、これらの経験の蓄積の上に成り立っており、しかも、難病患者、身体障害者、精神障害者、知的障害者、高齢者などそれぞれの独自で進んできた取り組みがひとつになって、当事者と専門的職種、或は当事者と専門的職種と地域住民が一緒になって、だれもが暮らせる地域作りへ転換し始めたことを示しているということを、是非理解していただきたいと思います。こうした取り組みはここに限らず全国にあり、例えば北海道だけを見ても精神障害者を中心とした浦河町などの取り組みにもそれが見られます。

 このように、障害を持っていても地域社会の一構成員として暮らしていけるように支援をするという考え方が、2000年に改正された社会福祉法(第4条)で示された支援の新しい考え方でもあります。誰もが共生できる地域社会が新しい地域福祉の目標となったのです。

 行政の役割ということで言えば、このような取り組みをどのように支援していくかが課題となります。当事者をエンパワメントするだけでなく、行政が地域社会をエンパワメントすることも非常に大事であり、それが、これからの地域福祉の在り方、或は地域社会の在り方になっていくのではないかと思います。その意味ではグッドライフの取り組みがここだけではなくて、各地に育っているその芽を、これからどのように広げていくかが大事なことであると思います。

4.日常生活の意味とホームヘルパーの役割

 サービス利用者と援助者の関係は、これまで一方的で、利用者主体ではなくてサービス中心・サービス本位になりがちでした。これを利用者主体に転換していくことが課題ですが、それは利用者の力だけでも、専門的職種の力だけでもできません。この新しい援助の在り方というのは、お互いにどのようにパートナーシップを持つかということが大事ですが、この新しい支援の技術の発展の在り方としては、さまざまな実践場面において、利用者からあるいは地域社会の人々から学んで、それを理論化・実践化することが必要であり、それが私たちの当面する課題といえるのではないでしょうか。

 その中で大事なのはホームヘルパーの役割です。その理由は、日常生活を支援する専門的職種の中で、ホームヘルパーが最も長時間・継続的に支援し、しかも日常生活の支援を固有の領域としているからです。利用者とホームヘルパーの関係をどのように作っていくのかをもっと深めることが課題となります。

 ホームヘルパー(ケアワーカー、介護福祉士)が行うケアワークの意味は、いのち〔生命〕を支え、暮らし〔日常生活〕を自ら創れるように支援をし、その人が生きていくこと〔人生〕を支援することです。利用者の日常生活を私たちが代りに作ること(管理すること)ではなく、利用者自らが創っていくことを支援することが大事なのです。

 今までの施設の在り方の問題は、その日常生活を画一的・一方的に押しつけることであり、それが"施設らしさ"を形成してきました。アメリカの社会学者ゴフマンは、大規模施設の施設生活に「a total institution」という言葉を用いましたが、日本の社会学者石黒毅はこれに、「悉く己の意のままにする」という意味の「全制的施設」という訳語を当てました(ゴフマン『アサイラム』)。しかしこれからは、このことを施設に限らず地域でも打ち破っていかなければならないのです。

利用者が生きていくのを私たちが代るのではなく、利用者が日常生活を自分で創っていくことを私たちが支援する。日常生活というのは、いってみればその人が持っている日常的な時間であり空間で、それはその人の人生の核になるもので、その人生を自分が創っていくことを私たちは支援していくことが必要です。だからこそ、そこに深くかかわるホームヘルパーはとても重要な役割を持っていますし、そのことをケアマネージャーやコーディネーターがより深く理解しておくことが大切なのです。

(太田貞司)

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